- 作成日 : 2025年6月20日
創業融資の使い道は?NG例や融資後の資金使途違反がばれるリスクも解説
創業期においては、しっかりとした事業計画と、それを支える資金が不可欠です。しかし、融資を受けるためには「借りたお金を何に使うのか」という資金の使い道を明確に示す必要があります。
この記事では、創業融資の代表的な使い道である運転資金や設備資金の具体例から、意外と知られていない活用法、そして絶対に知っておくべき認められないNGケースまで、初心者の方にも分かりやすく説明します。
目次
創業融資の代表的な使い道
創業融資の使い道は、大きく分けて「運転資金」と「設備資金」の2種類があります。これらは事業を安定的かつ効率的に運営していくために不可欠なものであり、融資審査においてもその妥当性や必要性が厳しく見られます。
運転資金
運転資金とは、事業を継続的に運営していくために必要となるお金のことです。日々の活動の中で発生する様々な支払いに充当されます。創業当初は、売上が安定するまでの3ヶ月〜半年分程度の運転資金を目安に計画することが推奨されています。具体的な運転資金には、以下のようなものが挙げられます。
運転資金は、事業が黒字化するまでの期間を支える重要な役割を担います。そのため、創業当初は売上が安定しないことを見越して、十分な期間の運転資金を確保しておくことが肝要です。
設備資金
設備資金とは、事業を開始したり、事業を拡大したりするために必要な設備や資産を購入・導入するための資金です。長期的に事業の収益力を高めるための投資と言えるでしょう。
- 店舗・事務所の取得・改装費用:物件購入費、内装・外装工事費、看板設置費など
- 機械・車両・備品等の購入費用:生産機械、業務用車両、パソコン、デスク、応接セット、厨房機器など
- 保証金・敷金:店舗や事務所を賃借する際に貸主に預ける費用
- ソフトウェア・システム開発費用:会計ソフトや顧客管理システム(CRM)などの導入費、システム開発費など
設備資金は高額になることが多いため、その投資対効果を慎重に検討する必要があります。見積書を提出する際は、金額の妥当性も審査されることを意識しましょう。可能であれば複数の業者から相見積もりを取得し、比較検討した経緯を示せると、計画の信頼性が高まります。
創業融資の意外と知られていない使い道
運転資金や設備資金といった主要な費目に加え、創業融資には意外と知られていない、あるいは判断に迷うような使い道も存在します。
法人設立に関わる費用
株式会社や合同会社などの法人設立時の定款認証費用や登録免許税といった法人設立費用も、創業融資の対象となる場合があります。
事業に必要な許認可の取得費用
場合によっては、飲食業の営業許可、建設業の建設業許可など、特定の事業に必要な許認可取得にかかる申請手数料や専門家(行政書士など)への依頼費用の一部も対象となることがあります。
スキルアップのための研修費用
従業員のスキルアップや経営者自身の事業に必要な知識・技術習得のための研修費用やセミナー参加費用も、事業成長への投資として認められる場合があります(事業との関連性が必須)。
運転資金の見積もり不足を補う資金
当初の計画よりも早く運転資金が不足した場合の追加的な運転資金として活用できることもありますが、慎重な判断と説明責任が求められます。
創業融資の使い道として認められないNG例
創業融資は、あくまで事業を健全に運営するための資金です。そのため、以下のような使い道は原則として認められません。創業融資は事業計画と厳密に紐づいており、使途が比較的自由なビジネスローンなどとは性格が異なる点を理解しておきましょう。
経営者や家族の生活費
創業融資は、経営者自身やその家族の生活費に使うことは固く禁じられています。これは、資金使途を事業用と個人用で明確に区別するという大原則に反するためです。生活費は、事業から得る役員報酬や給与の中から賄うべきものであり、融資で補填することは公私混同と見なされ、金融機関からの信頼を著しく損ないます。もし事業資金を生活費に流用したことがばれると、一括返済を求められることもあります。
株式投資や不動産投資などの投機目的の資金
株式購入、FX取引、暗号資産(仮想通貨)への投資、事業とは直接関係のない不動産投資といった、投機的な性格を持つものや、本業とは異なる資産運用目的での資金利用は認められません。これらの活動は事業の安定性を損なうリスクがあり、融資の趣旨から外れるためです。
個人的な借入金の返済資金
個人的な借入金や未払金、あるいは友人・親族からの個人的な借入金の返済に、創業融資を充てることは原則として認められていません。基本的にはNGと理解しておきましょう。
使途不明金
融資を申請する際には、何にいくら使い、それが事業にどう貢献するのかを具体的かつ合理的に説明する必要があります。「とりあえず運転資金として多めに確保しておきたいが、具体的な使い道はまだ決まっていない」といった、使途が不明瞭な資金や、客観的な根拠を示せない資金に対して融資が実行されることはありません。
「見せ金」としての利用
「見せ金」とは、自己資金が少ない場合に、一時的に他人からお金を借りて自己資金が多いように装い、融資審査を有利に進めようとする行為です。創業融資で借りたお金を、この「見せ金」に充てることは、絶対に行ってはいけません。これは金融機関に対する重大な背信行為であり、虚偽申請に該当します。
創業融資の審査で使い道を効果的に伝えるポイント
創業融資の審査では、資金使途の明確性と妥当性が厳しくチェックされます。融資担当者に納得してもらうためには、以下のポイントを押さえましょう。
事業計画書との整合性を示す
創業融資における資金使途は、提出する事業計画書と完全に一致している必要があります。まず、事業の規模や内容に見合った過不足のない現実的な金額を正確に見積もりましょう。その上で、「運転資金のうち仕入れ費用〇〇円」のように、具体的な品目と金額を詳細に記載します。特に日本政策金融公庫などの創業計画書では、資金の調達方法と使い道を具体的に記す欄があり、ここでの説明と見積書などの根拠資料との整合性が厳しく見られます。設備資金はもちろん、運転資金に関する賃貸借契約書なども可能な限り用意し、計画の信頼性を示しましょう。
融資担当者への説明責任を果たす
事業計画書に詳細を記載するだけでなく、融資担当者との面談の場で、自身の言葉で資金使途の必要性を分かりやすく説明する「説明責任」を果たすことが求められます。単に「何にいくら必要」と伝えるだけでなく、「なぜその資金が事業に必要なのか」「その資金を投入することで事業が具体的にどう成長し、収益につながるのか」を熱意を持って語りましょう。その際、専門用語や業界用語の多用は避け、誰にでも理解できる平易な言葉で、論理的かつ丁寧に説明することを心がけることで、担当者の理解と共感を得やすくなります。
自己資金とのバランスを明確にする
創業融資を申請する際には、事業に対する経営者自身のコミットメントを示すためにも、一定額の自己資金を用意していることが望ましいとされます。その上で、全ての費用を融資に頼るのではなく、「どの部分を自己資金で賄い、どの部分に融資を必要としているのか」を明確に区分して説明することが重要です。そして、「自己資金として〇〇円準備したが、事業計画遂行のためにはさらに△△円が必要であり、その部分を融資でお願いしたい」といったように、自己資金の状況を踏まえ、それでもなお融資が必要な理由を合理的に伝えましょう。
創業融資後に使い道を誤った場合のペナルティ
創業融資は、事業計画に基づいて承認されるものであり、その使い道を誤ることは、融資契約(金銭消費貸借契約)の根幹を揺るがす行為となります。万が一、融資実行後に資金使途違反が発覚した場合、以下のような厳しいペナルティが科されることが一般的です。
契約解除と融資金の一括返済要求
最も重いペナルティの一つです。金融機関は融資契約(金銭消費貸借契約)を解除し、残っている融資金全額(経過利息を含む)を一括で返済するよう要求することができます。創業間もない時期にこのような事態に陥れば、資金繰りが一気に悪化し、事業継続が極めて困難になるでしょう。
遅延損害金の発生
一括返済を求められてもすぐに返済できない場合、通常の融資利率よりも高い遅延損害金が日々発生し、返済がさらに膨らむ可能性があります。
追加融資や他金融機関からの借入が絶望的に
一度でも資金使途違反を起こすと、その金融機関からの信用は完全に失墜します。将来的な追加融資はもちろん、場合によっては、他の金融機関からも、新たな借入が非常に難しくなります。これは、事業の成長機会を大きく奪うことにつながります。
詐欺罪などに問われる可能性も
特に、最初から融資金を騙し取る目的であったなど、資金使途違反が悪質であると判断された場合には、金融機関から詐欺罪などで刑事告訴される可能性もゼロではありません。そうなれば、経営者個人の人生にも取り返しのつかない影響が及びます。
創業融資後の資金使途違反がばれる仕組み
「少しくらいなら大丈夫だろう」「どうせばれないだろう」といった甘い考えで創業融資の資金使途を偽ったり、目的外に流用したりすることは非常に危険です。
多くの金融機関では、融資実行後に「使途確認(使途調査)」と呼ばれる手続きを行います。これは、融資契約(金銭消費貸借契約)に基づき、貸し付けた資金が申請された事業計画通りに正しく使われているかを検証するものです。
金融機関や融資の種類、金額によって異なりますが、設備資金の場合は、対象設備の購入・設置が完了したタイミングで確認が入ることが多いです。また、初回だけでなく、完済までの間に定期的に、あるいは金融機関が必要と判断したタイミングで追加の報告や調査が行われることもあります。
そして、金融機関は多角的な視点から資金の流れをチェックするため、安易な資金使途違反は見抜かれる可能性が非常に高いのです。
創業融資の使い道を正しく理解しましょう
創業融資は、夢を実現するための強力な後押しとなりますが、その使い方を誤れば大きなペナルティを科される可能性も否定できません。最も重要なのは、事業計画に基づいた透明性の高い資金計画を立て、それを誠実に実行することです。そして、万が一計画に変更が生じた場合は、速やかに金融機関に相談する姿勢が求められます。この記事で得た知識を活かし、創業融資の使い道を正しく理解・計画することで、あなたの事業が大きく成長していくことを心より願っています。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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