- 更新日 : 2024年7月12日
内部統制とコンプライアンスの違いは?メリットや強化の流れ・方法を説明
IPOの準備を進めている企業の担当者であれば、内部統制の構築も同時に進めているのではないでしょうか。上場審査を受ける際は、最近3年間における法令違反や不祥事について確認が行われることもあるため、内部統制を徹底してコンプライアンスを強化しておく必要があります。
本記事では、内部統制とコンプライアンスの違いや、効率的にコンプライアンスを強化する方法について解説しています。
目次
内部統制とは
内部統制とは、経営者が会社を効率的かつ健全に運営するための仕組みのことです。従業員が不正や法令違反を起こさないよう、内部統制の整備を行うことで、企業は事業活動を効率的かつ健全に運営することができます。
また金融庁の「財務報告に係る内部統制の評価および監査の基準」によると、内部統制では、達成すべき4つの目的があるとしています。
業務の有効性および効率性
事業活動の目的を達成するためには、業務の有効性および効率性を高めることが必要です。
業務の有効性は、事業活動の目的をどれだけ達成したかという達成度で図られます。また効率性については、企業の資源(人材や資材、資金など)をどれだけ適切に分配して利用したかという資源の利用度で図られます。
財務報告の信頼性
利害関係者からの信頼を維持するためには、財務諸表をはじめとした財務情報の信頼性を確保することは非常に重要です。そのため、財務報告にあたっての虚偽記載を防ぐことが内部統制の目的のひとつとなっています。
財務報告の信頼性を高めるためには、少なくとも重要な記載誤りが無いことなどについて監査法人等に証明してもらう方法もあります。
事業活動に関わる法令等の遵守
事業活動において法令違反があればその企業は当然、社会から受け入れられません。法令違反には、長時間労働や業務上横領のほか、ハラスメントや個人情報漏えいといったコンプライアンス違反も含まれます。
法令違反が発生してしまうと組織の存続自体が危うくなる可能性もあるため、研修を実施するなどして、法令の遵守を徹底することが必要です。コンプライアンスの定義については、後ほど解説します。
資産の保全
資産の保全を達成するためには、財産の使用や取得、処分について、適切な手続きや承認を得るための仕組みを構築する必要があります。
また会社法では一部の場合を除いて監査役の設置が義務づけられており、業務や財産の調査を通じて組織の資産の保全について重要な役割を果たしています。
コンプライアンスとは
コンプライアンスは、法令遵守を意味する言葉です。しかし近年では、企業が法令を遵守することに加えて、社会的規範や社会的道徳などを守ることも含まれています。
コンプライアンスを強化する目的は、第一に法令違反や不祥事を起こさないようにするためです。企業のコンプライアンス違反が発覚した場合、行政処分や罰則などの影響にとどまらず、取引先や消費者からの信頼を失うことにもなるからです。
コンプライアンス違反により事業継続が不可能になるケースもあるほか、仮に事業が存続したとしても、企業ブランド毀損による信頼回復に、長い年月が必要になるケースもあります。最近ではSNSの普及により、不買運動や取引自粛、集団訴訟などに発展するリスクも大きくなっています。
内部統制とコンプライアンスの違い
内部統制は企業が事業活動を健全かつ効率的に運営するための「仕組み」のことで、コンプライアンスは目指すべき「あるべき姿」のことをいいます。内部統制の仕組みを構築することにより、コンプライアンスが強化されるということです。
言い換えれば、コンプライアンスを強化しようと思うと内部統制を整えなければならないということです。双方を切り離して考えることはできないと思っておきましょう。
内部統制でコンプライアンスを強化するメリット
内部統制でコンプライアンスを強化するメリットには、以下のようなものがあります。
企業のブランドイメージが向上する
内部統制によりコンプライアンスを強化することで、企業のブランドイメージが向上します。コンプライアンスの強化により企業は健全に事業活動を行えるほか、従業員のモラル向上が見込めるからです。また近年では、企業のコンプライアンスに対する姿勢への社会的関心が高まっており、コンプライアンス違反を起こしていないことが評価につながる場面もあります。
コンプライアンス違反が発覚すると企業のブランドイメージが毀損してしまうため、コンプライアンス違反を起こさない体制を社内に構築し運用していくことが重要です。
株主の信頼を獲得できる
コンプライアンスを強化することは、株主の信頼を獲得することにもつながります。内部統制を徹底することで「財務報告の信頼性」や「業務の有効性および効率性」を確保できるため、企業の透明性が高くなるからです。
株主の信頼をさらに獲得したいと考えるのであれば、財務報告の信頼性を監査法人等に証明してもらうとよいでしょう。
従業員とのトラブルリスクを抑えられる
コンプライアンスを強化することにより、従業員とのトラブルリスクを抑えられるようになります。内部統制を整備することで、社内規定等の業務ルールが明確になり、従業員の遵守すべきことが分かりやすくなるからです。
また、コンプライアンスの意識を日頃から従業員に浸透させておけば、法令違反や不祥事を未然に防ぐことにもつながります。
効率的に内部統制でコンプライアンスを強化する方法
内部統制でコンプライアンスを強化するためには、適切な権限者による承認や検証など、リスクに対応した適切なコントロールを業務手続きに組み込む必要があります。しかし紙ベースで行われている従来の業務手続きでは、申請書のフォーマットがなかなか見つからないことや、記入事項の誤りや抜け漏れなどが発生しやすい問題があります。
また紙ベースでは、手渡しや郵送で書類を渡すことになるため、紛失等による個人情報漏えいのリスクが生じるほか、リモートワークに対応することができません。
しかし「ワークフローシステム」や「ERP」を導入することで、紙ベースで生じていた問題を解決できます。ここからはシステムを利用して、効率的に内部統制でコンプライアンスを強化する方法を紹介していきます。
ワークフローシステムを導入する
効率的にコンプライアンスを強化するために、ワークフローシステムを導入する方法があります。ワークフローシステムとは、紙で行っていた業務手続き(ワークフロー)を電子化したものです。
ワークフローシステムでは、書類を申請した際に「誰が承認するか」のルートを作成できます。「申請者→課長承認→部長承認→経理部承認」といったルートの作成はもちろん、5万円未満の申請は部長の承認が不要といった分岐ルールの作成も可能です。
ワークフローシステムを導入することにより、申請・承認のログが残るほか、改ざん等の不正が防止できるため、紙ベースでのワークフローよりもコンプライアンスを強化できます。
ERPを導入する
ERPとは「Enterprise Resource Planning」の略語で、直訳すると「企業資源計画」という意味になります。一般的にERPは、自社の経営情報を集約するシステムの総称をいい、日本では「統合基幹業務システム」や「基幹系情報システム」と呼ばれています。
ERPを導入することで営業情報や物流情報、経理情報や財務情報など、企業内に点在しているあらゆる情報をIT化により一元管理できるようになるのです。データが一元管理できるようになると、内部統制の効率化やコストの削減、生産性の向上が見込めます。またERPのなかには、外部サービス連携に対応しているものもあるため、現在利用しているサービスがある場合でも導入が可能です。
内部統制とコンプライアンスの強化に関する注意点
内部統制を徹底することでコンプライアンスを強化できますが、仕組みを構築して放置していると内部統制が形骸化してしまう可能性があります。内部統制が形骸化してしまうと、コンプライアンス遵への意識が全社員に浸透せず、コンプライアンスを軽視した従業員が、法令違反や不祥事を起こしてしまうかもしれません。
内部統制を形骸化させないためにも、定期的に内部統制の整備・見直しを行うことが必要です。社会や企業の変化にあわせて、社内規定等の整備・見直しを行うことで、従業員のコンプライアンスに対する意識が変わるのではないでしょうか。
まとめ
近年ではSNS等の普及により、法令違反や不祥事が発覚した際は、驚くほどの早さで情報が拡散されてしまいます。どの企業もコンプライアンス違反を防ぐためにさまざまな対策を施していますが、コンプライアンス遵守の意識を全従業員に浸透させることは難しいようです。
コンプライアンスを強化するうえで最も効果があることは、コンプライアンス違反が起こらない環境を整備することです。従業員の意識は人それぞれのものでも、従業員の働く環境は企業が変えられるためです。コンプライアンス違反を防ぐための方法として、まずはワークフローシステムやERPの導入をおすすめします。
よくある質問
内部統制とコンプライアンスの違いとは?
内部統制はコンプライアンスを徹底するための「仕組み」のことで、コンプライアンスは目指すべき「目的」のことをいいます。内部統制の仕組みを構築することにより、コンプライアンスが強化されます。
内部統制でコンプライアンスを強化するメリットは?
内部統制でコンプライアンスを強化するメリットは以下の通りです。
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